おかしな原発擁護論

 原発問題については、河野太郎衆議院議員が自民党のやり方を厳しく批判している。5月5日の朝日新聞インタビュー記事からその主張を以下に要約する。
 @使用済み核燃料などいわゆる『核のゴミ』を捨てる場所が日本にないのに原発をふやそうとした
 A自民党は、電力会社から金をもらい、立地自治体に補助金を出しやすい制度を整え、経済産業省は電力会社関係の公益法人に天下りする。電力会社は、大学に研  究費を出して御用学者を育成し、多額の広告代をもらうマスコミは原発批判を緩め、巨悪と添い寝してきた。
  要するに政・官・産・学・メディアの五角形が『安全神話』をつくった
 B利権で原子力行政をゆがめてきた自民党がやるべきことは謝罪である。
 C再生可能エネルギーを加納氏らが『原子力の邪魔』とつぶしてきた。経産省が出そうとしない(正しい)情報をきちっと出せば、「原発現状維持」の世論は変わる。
 D賠償金はいずれ電力料金に上乗せされる。国民が負担するのなら東電の存続を前提にすべきではない。

 河野氏の主張は、プルサーマルの問題も含め、正しいと思うし、勇気ある発言だと思う。さらに原子力、原子力というが燃料となるウランの可採埋蔵量は100年もないのである。高速増殖炉を使えば、エネルギーを取り出しながら、燃料となるプルトニウムを生成するので、ほぼ無尽蔵のエネルギーが得られると「もんじゅ」などで検討していたが、冷却材の金属ナトリウムが漏れて火災事故を起こした。世界中でも実用化は進んでいないどころか、先進国では計画を中止している。 

 一方、ネットで次のような主張をしているブログを見つけた。

 原発よりも火力発電や自動車の方が危険だという主張である。今回の東日本大震災でも原発事故による死者は出ていないし、これまで日本で原発事故による死者は一人も出ていないが、火力発電では、燃料の石炭を掘る炭鉱で相当数の死者が出ている。だから火力発電よりも原発の方が安全である。
 自動車事故で毎年5000人以上の日本人が死んでいるが、原発では死者0なので原発は安全である。自動車事故を起こすから自動車を無くそうという話にならないように、今回の原発事故で原発廃止というようなことをいうのはおかしい、と言うことらしい。

 原発と火力発電、自動車の安全性を比較するのに、単純に関係する死亡者数のみで判断する欺瞞。こういう発言を東大を出た、世間的には頭が良いといわれる人間がするのである。ところがこの発言は何かおかしいと頭の良くない私でも直感できる。
 水俣病の被害漁民達はチッソ水俣の排水が怪しいと最初から分かっていた。それはチッソ水俣の排水溝の近くでは漁船に生き物が付着しないからである。それを頭の良い大学の先生たちを始めとする御用学者達は出鱈目な説を次々と出して、水俣病の解決を遅らせただけでなく、被害を拡大させた。

 原発が、他の発電や事象と単純に比較できない理由は、事故時の被害の重大性と継続性にあると私は考える。福島第一原発の事故を見ても分かるように一旦重大な事故が起きるとその影響は日本だけでなく、世界中に及ぶ。浜岡や玄海原発などで事故が起これば、比較的近隣に大都市があるために影響は福島の比ではないだろう。玄海原発では、その東に福岡市、北九州市がある。それが避難区域などに指定されるような事態になったら200万人以上の住民はどこに行けば良いのか?
 27日夕刊に「玄海原発想定超す劣化か 1号機の圧力容器」の記事。原子炉は年数を重ねるごとに中性子を浴びて圧力容器の材質が劣化し、その劣化の度合いを調べるために圧力容器内に容器材質と同じ試験片を置いて定期的に「脆性遷移温度」を測っている。 この脆性遷移温度は、76年、80年、93年、09年に測定し、09年の測定値が大幅に上昇しているのである。この結果を九電は予定通り60年間運転しても大丈夫と評価しているが、井野博満・東大名誉教授は九電と異なる評価を下している。
 このことは何を意味しているのか。要するに材料劣化試験の評価方法自体が確立していません!ということではないのか。なんといい加減な世界。これが安全安全と言い続けてきた原発の世界ではないのか。

 もう一点、原発事故の継続性について言っておかなければならない。
 5月5日付け朝日朝刊で東電顧問で元自民党の参議院議員であった加納時男という人物が、「低線量放射線は『むしろ健康にいい』と主張する研究者もいる。説得力があると思う。私の同僚も低線量の放射線治療で病気が治った。過剰反応になっているのでは。むしろ低線量は体にいい、ということすら世の中では言えない。これだけでも申し上げたくて取材に応じた」といっている。この人物も東大卒業。
 治療に使う放射線も体には毒。しかし、放射線の害悪とガンによる害悪を比べた場合、ガンによる害悪の方が短時間で大きく作用するから危険と分かっていて放射線を使っているだけ。低線量というのをどういうレベルで考えているか知らないが、こういう発言を被災地で小学生などの被曝量が議論されているときにすべきものか。完全に頭がおかしいと私は思う。こんな人物が勲章をもらっている。勲章というのはどうしようもない馬鹿がもらうものなのか、と思う。そうでないなら政府は勲章を返却させるべきである。
 話が変な方向にずれたが、避難区域はいつになったら解除されるのか。今回、原発外にばら撒かれた放射性物質の影響が将来子供達にどのように現れるか。
 メルトダウンした燃料を取り出すのに10年くらい掛かるだろうといわれているから、この十年くらいは避難区域が少し狭められることはあっても解除されることは無いであろう。また、子供達の年間許容被曝量が議論されているが、本当にどの程度の影響があったのかが判明するのは数十年後になるだろうと思う。要するに現在、子供の年間許容被曝量が問題になっているということは、放射線について未知の部分が多いということである。数年後または数十年後に福島に子供時代住んでいた人間にガンや白血病が多発したら、放射線の影響は大きかったということである。

 原発事故の重大性と継続性を無視して、死者数だけで安全性、要するに世の中のあり方を論じる馬鹿さ加減。そもそも石炭採掘事故による死者を火力発電に関連した安全性と関連付けさせること自体が論理の矛盾である。

 自民党が内閣不信任案を出すと息巻き、小沢一派は同調する動きを示している。解散総選挙になれば、自民党が圧倒的な大勝利になるのだろうが、そうなれば自民党の天下再来で再びやりたい放題するんだろう。要注意。

(2011年5月29日 記)

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